物欲に負けてみる

ブラザーのコンパクトレーザー複合機「DCP-7010」欲しい!
 隣でバシバシキータイピングしてた友人が急に叫んだ。
「どしたのよ?」
 そう私が言うとその人は徹夜明けの充血した眼でこっちを見て、
「お前は俺が日夜どんだけ文章を印刷しとるか知ってるか?」
「知らないけど?」
「だろうな。だがな、もう限界なのだよ。
 う ち の プ リ ン タ が ! 」
「ふむ………」
「どいつもこいつも俺がレーザープリンタ持ってることを利用しやがって……、うちは印刷屋かよ!!」
「でも、それで対価貰ってるんじゃない。それで何か不満なの?」
「いや、別にそうじゃないが………。ほら、対価貰っても使ってしまっては設備投資に使えないわけで………」
 何を言うかと思えば………。
「いや、幸恵の言いたいことは分かる。うむ。だがな、金はないものはないのだ。そこでだ」
「そこで?」
「ふふふふふ、さっきのキーワードが重要になるのだよ」
「?」
 何を言ってるんだろう、よっちゃんは。
「幸恵は分からんでもいい。だが、これは呪文なのだ。もしかしたら、俺がさっき言ったプリンタが手に入るかもしれん」
「もう、どうでもいいわよ……」
 どうも言うことは言い切ったようで、よっちゃんは再びキーをたたき始めた。その横顔を眺めながら私は思ったのだ。
(『俺』なんて言わなきゃかわいいんだけどなあ、よっちゃん)
 そんなことなど勘付きもせず、よっちゃんは黙々と打つのであった。